牛丼

月曜日だけはいつもより15分早く家を出るから、週に4回最寄駅のそばで必ずすれ違う男性がいる。お兄さんとおじさんの中間の彼はいつも少しよれた保冷バッグを持っていて、それが愛妻弁当なのか自作なのかは判別できないけどどちらにせよ毎朝の電車の時間より少し早めに駅に着きコンビニに寄る私に比べてマメな人だなと思う。夏の1番暑い時期は日傘をさして歩いていたから、最近また遠くに見える彼と少しだけ目を合わせてしまってはすぐに逸らす気まずい時間を味わっている。彼とすれ違うポイントによって、私は早足になったりならなかったりする。

週4で顔を合わせてしまう彼だが、最近は5〜6の週がある。定時で帰る日やすごく残業をした日は会わないけど、ちょっと残業をした日は同じく帰路の彼と会ってしまうことに気づいた。最寄駅のそばで。片手に駅を出てすぐのコンビニの袋を提げている私と、おそらく空になったであろう保冷バッグを提げている彼。気まずさの量で言えば私の圧勝だ。

家から最寄り駅までの一本道でしか交わることのない人なんだろうなと思う。そういう人を大事にしてみたいと思っていたけど、今までのそういう人たちってもうあんまり思い出せないかもしれない。

 

 

高校生の頃、夏休み明けてすぐに文化祭と体育祭があった。文化祭2日間と体育祭1日の計3日を総じて学園祭というような形だったように思う。

その学園祭の3日目、体育祭が終了した夕方に校庭から自分のクラスへ戻る際の体育館と校舎の間の通路。そのちょうど中頃でずわっと吹いた風は秋の匂いで、さっきまで、ほんの少し前まで夏の真ん中で体育祭をしていたのに閉会式が終わって私たちの学園祭が終わって大きな風が吹いたその瞬間から秋が始まって、しかもそういうことを決して欠かすことなく高校3年間毎年感じていた。ついさっきまで飲んでいたカルピスソーダと、その風の後教室に戻って飲んだカルピスソーダは別のものだった。そんな風に季節の変わる瞬間を意識できたことを、体育祭で何の競技に出たとか何色の組が優勝したとかそういうことよりはっきりと覚えている。覚えているし、いつかもう一度その感覚を味わいたい。思い出に勝る感覚を得たい。